す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

Review

朝日新聞より

自分の国の政府が「加害者」となった時、その国籍を背負う国民はどうすればいいのだろう。自国の同胞が隣人に憎しみを持って攻撃された時、それは自国の兵士が隣人を蹂躙しているからだ、と認めることができるだろうか。そして「加害者」の国の人間として、…

朝日新聞より

同性愛の罪で投獄された「世界一有名なホモセクシャル」、オスカー・ワイルドの代表作に 『ドリアン・グレイの肖像』*1 がある。絶世の美青年が主人公のこの小説にはホモセクシャルな気分がたちこめているが、本書の著者は、「ドリアン」とは古代ギリシアの…

朝日新聞より

18歳の義父による執拗な暴力が始まったのは、ジェーンがわずか4歳のときだった。黒髪でオリーブ色の肌をした彼女を義父は「色つき女」と蔑み、殴る蹴るの暴行を始める。体の傷や痣が消えるまでは学校を休まされた。ジェーンの母にもすさまじい暴力をふるい…

朝日新聞より

武装SS(ナチス武装親衛隊)の歴史には、戦場の栄光と戦争犯罪の汚辱が切り離しがたく癒着している。 本書の原著は1966年にアメリカで初版が刊行され、今なお版を重ねる古典的名著の由。日本での専門書は芝健介『武装SS』『武装SS全史 Ⅰ・Ⅱ』(共著)…

朝日新聞より

02年にイスラム教過激派テロリストに殺害された『ウォールストリート・ジャーナル』紙記者ダニエル・パール氏の妻がつづったメモアール。パール記者はある容疑者の背後関係を取材していたときにカラチで誘拐され、鋭利なナイフで首を切り落とされた上、9つ…

朝日新聞より

バリー・ユアグローの『ケータイ・ストーリーズ』は、1ページか2ページで終わってしまう話がずらりと並んだ短編集だ。 不条理な肌触りのする話、思わず腹黒く笑ってしまう話、さびしい美しさに満ちた話。フツウに暮らしていたはずなのに、気づくとどこかが…

朝日新聞より

主人公の「わたし」は、父危篤の報に母と兄と病院にかけつけた。だが、無言で父の死を伝える医師のサインを、自分だけが見逃した。そのトラウマを抱えた息子の、孤独な魂の放浪を描いた小説。10代のアラビア行以来、重ねた旅の先々で年格好の似た男性に父の…

朝日新聞より

最近、英国の海岸をびしょぬれのスーツで歩いていて保護された、謎の「ピアノマン」が話題になった。記憶を失っているらしく、素性もわからないが、ピアノの腕前だけはたいへんなものとか。 本書の主人公アンドレアも、その境遇がとても似ている。ただ、彼が…

朝日新聞より

当代随一のストーリーテラーは、タビー破りが得意だ。宗教象徴学者ロバート・ラングドンという魅力的なヒーローを据えて、『天使と悪魔』(2000年)ではローマ教皇を、『ダ・ヴィンチ・コード』(2003年)ではイエス・キリストを、とてつもなくスキャンダラ…

朝日新聞より

いかなる社会にも後ろめたい部分は存在する。西洋においてその最たるものは、言うまでもなく反ユダヤ主義の伝統である。ホロコーストは20世紀の鬼子であるナチスが引き起こした特異な現象であったというのが今日の一般的な理解であろう。しかしその根元に、…

朝日新聞より

かつて、一冊の本や一枚のレコードを探して都内を歩き回った時代があった。いまや、インターネットの発展は、とうに市場から消えたものすら、たちまち発掘してしまう。 してみると「歩くこと」の意義も変わったのか。かつて「イギリス人は歩きながら考える」…

朝日新聞より

始祖のポー依頼、推理小説は不可解な犯罪を扱うが、謎はすべて論理的に解明されなければならない。しかし、その約束がしだいに独り歩きして、論理の奇抜さを競う遊戯と化していった。 ハイスミスも、映画化された初期作品『見知らぬ乗客』や『リプリー(太陽…

朝日新聞より

先日、久々に『ちびくろ・さんぼ』を読んだ。なつかしかった。楽しかった。森の中でトラに襲われた少年が、機知で危機を切り抜ける。特にさんぼが登った木をかこんでトラたちが走り、バターになってしまうところは最高だ。そのバターでお母さんがホットケー…

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1967年、カナダ。生後8か月の男の子が包茎手術の失敗からペニスを焼き焦がされてしまう。人工性器を形成するしか手立てがないと診断された両親は、バルチモアの名だたるジョンズ・ホプキンス病院を訪れ、性科学の権威、ジョン・マネー博士のアドバイスにした…

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デーヴィッド・セダリス。ラジオ放送でもニューヨークの舞台でも、そしてベストセラーリストとしてもひっぱりだこのエッセイストだ。彼の人気は、メイシーズでクリスマスのサンタ役を務めたときの体験にもとづいて書かれた痛快エッセイ『Santaland Diaries』…

朝日新聞より

子どもを虐待したり夫婦間の政争の具にしたりする親には、文句なくお勧めしたい本である。でも、この本の200万読者は、そんな親ではあるまい。子どもを大切に思い、食べちゃ痛いほど愛しているからこそ、この本を手に取ったにちがいない。「より良き親になり…

亀和田武さん(作家)のマガジンウォッチ

第二回の本屋大賞を受賞した恩田睦の『夜のピクニック』が、書店のよく目立つコーナーに、どおーんと高く積まれている。 昨年の受賞作、小川洋子の『博士の愛した数式』は受賞後に30万部が売れた。誕生から1年で、本屋大賞は芥川賞や直木賞に匹敵する話題と…

朝日新聞より

2002年に日本銀行が銀行保有株の購入を開始した際、ニューヨークのウォール街関係者の中に理屈を超越した生理的嫌悪感を示す人々がいた。知人に解説されてなるほどと思ったが、アメリカは国家成立の経緯自体が、欧州の権力の干渉に対する戦いであった。株式…

朝日新聞より

84年からニューヨークに住む著者は、世界から独善性を批判されるアメリカだが、戦争に反対する人間も多く、その声を日本に届けたいと、作家たち20人にインタビューした。イラク侵攻ではマスメディアや議会が間違った判断をしたと自ら苦しむ姿がある。また、…

朝日新聞より

ヒマすぎな春休みをもてあまし、<ぼく>は、同じ<学校>に通う友だちとつるんで宇宙旅行に出た。というか“月”のクラブまで踊りに行ったら、ハッカーにやられちまった・・・脳に埋め込み手術してある、フィード(=コンピュータ)が。 アメリカの未来世紀、…

朝日新聞書評

ある日、4歳の愛娘がガンを告白された。大学教授のパパは勤めを切りつめ、医学書を読み漁り、娘と一緒にお絵かきを習い、セーラームーンごっこに興じる。抗ガン剤、脱毛、手術、再発といった過程を記す著者の筆は、対象を突き放せば突き放すほどにじみ出て…

「ユダヤ系」クラブの歴史と「真相」に迫る

南アフリカ出身のユダヤ人の両親を持つ著者は69年生まれ。異色のフットボール・ジャーナリストとして知られる。執筆のきっかけは、百周年を迎えつつあったオランダ最大のフットボール・クラブ、アヤックスが、戦前も今も「ユダヤ系」クラブであるという消え…

ニューヨーク流の女性就職残酷物語

ニューヨークにあるアメリカ企業はどんなやり方で仕事を進めていくのだろう。その現実をかいまみることができるのが今回紹介する『Citizen Girl』だ。社会風刺コメディなので、誇張はあるが、日本の会社では考えられない出来事が次々と起こり笑ってしまう。…

朝日新聞レビュー:作家・伊藤遊

異世界を舞台にしたファンタジーの多くが、冒頭に地図を掲げている。そを見ると、現在位置がつかめて便利なのだが、物語の主人公が地図も俯瞰する手段も持たない場合は、なんだかずるいことをしたような気になるのは私だけだろうか。 『はてしない物語』には…

朝日新聞より

本書は91年から毎年一冊ペースで観光されてきたラグビー熱狂者による寄稿文集。「ファンジン」と呼ばれるイギリス流投稿誌と違うのは、体裁がソフトカバーの単行本であるところだ。書き手8人の中心は50年生まれの中尾亘孝(のぶたか)で、「2011年ワールド…