す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

朝日新聞より

18歳の義父による執拗な暴力が始まったのは、ジェーンがわずか4歳のときだった。黒髪でオリーブ色の肌をした彼女を義父は「色つき女」と蔑み、殴る蹴るの暴行を始める。体の傷や痣が消えるまでは学校を休まされた。ジェーンの母にもすさまじい暴力をふるい、それらすべてが「おまえのせいだ」といわれ続けて育った。ほぼ同時期に始まった性的虐待も次第にエスカレートする。まさに原題の病理に光をあてたノンフィクションである。


やがて恋人ができ、17歳で出産してからも、義父からのレイプという名の虐待は続く。幼い頃から、絶対に真実を言うなと脅されていたジェーンは、ソーシャルワーカーにも恋人にも嘘をつき通した。しかし、愛する娘が義父に連れ去られようとしたとき、17年間の抑圧された恐怖が怒りへと変わった。


地獄のような虐待が続いたのは自分のせいではない。自分は被害者なのだ。彼女がそう思えるようになったのは、精神分析医による数ヶ月にわたる治療の末だった。デイヴ・ペルザーが自らの虐待体験を語った『“It”と呼ばれた子』も、彼女に声をあげる勇気を与えた。そして告発、裁判の後、ついに義父に法的な裁きが下された。家庭という密室でどれほどの子どもたちが傷つき、沈黙を強いられているのだろう。その現実を伝え、社会を変えていくために、この戦慄のノンフィクションは生まれた。