2002年に日本銀行が銀行保有株の購入を開始した際、ニューヨークのウォール街関係者の中に理屈を超越した生理的嫌悪感を示す人々がいた。知人に解説されてなるほどと思ったが、アメリカは国家成立の経緯自体が、欧州の権力の干渉に対する戦いであった。株式市場を資本主義と自由の象徴とみなすウォール街関係者にとっては、国家が市場に直接介入してくることは嫌悪の対象となるのである。
現代の我々はアメリカの価値観に基づいたグローバルスタンダードに取り囲まれている。こうなると好き嫌いにかかわらず、その背景にある彼らの歴史観を改めて学び直すことは重要だ。
本書には人間の機微が描かれており、リアリティーを持って読み進むことができる。日本のビジネスマンにお勧めである。日本では教科書検定が話題沸騰だが、アメリカには国家検定制度はなく、執筆者の個性が文面に表れる。理想を追求する姿勢を厚く解説する一方で、インディアン迫害、奴隷問題、日系人強制収容などに対する悩みにも言及している。アメリカは「歴史全体がひとりの悩める人間」のように葛藤を続けていると編者は指摘する。イラク問題にも通じるテーマだ。
英語が見開きで併記されており、「歴史の教科書って、こんなに面白かったっけ」と感じるのではないか。─加藤出(エコノミスト)