す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

「ユダヤ系」クラブの歴史と「真相」に迫る

南アフリカ出身のユダヤ人の両親を持つ著者は69年生まれ。異色のフットボール・ジャーナリストとして知られる。執筆のきっかけは、百周年を迎えつつあったオランダ最大のフットボール・クラブ、アヤックスが、戦前も今も「ユダヤ系」クラブであるという消えない噂から。アヤックスはカリスマ、ヨハン・クライフを生んだアムステルダムの名門クラブとして名高い。


読後に得られる真相は、ユダヤ人富豪による資金提供と、戦前から続くアヤックス独特のユダヤ的雰囲気が、60年代後半に始まる黄金期をもたらしたという事実に尽きる。ドイツ侵攻時、在住の14万人のユダヤ人のうちの10万人をオランダ人が見殺しにしたことにも著者はこだわり続ける。


サイモン・クーパーが記す。

フットボール・クラブ」は一種の家族であり、自分自身の家族を持たない人にとってはとりわけだ。(略)血のつながりこそなかったが、その点はホロコースト以降のたいていのユダヤ人家族も同様だった。殺された祖父と同年輩の生存者が『お祖父ちゃん』になり、他の者が『叔父さん』になり、従兄弟をでっちあげて人生をもう一度やり直そうとする。

冗長な面もあるが、この著者ならではの発見に満ちている。


─作家・佐山一郎朝日新聞より)