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ツブヤキニッキ

亀和田武さん(作家)のマガジンウォッチ

第二回の本屋大賞を受賞した恩田睦の『夜のピクニック』が、書店のよく目立つコーナーに、どおーんと高く積まれている。


昨年の受賞作、小川洋子の『博士の愛した数式』は受賞後に30万部が売れた。誕生から1年で、本屋大賞芥川賞直木賞に匹敵する話題とセールスの見込める超モンスター級の賞にまでなった。


いまは豊崎由美も指摘するように“直木賞残念賞”的な性格の濃い本屋大賞だが、そのうち力関係が逆転して、既成の文学賞は、確実に売れる本屋大賞とそれを選ぶ書店員たちが見逃した作品の、救済の場となるかもしれない。


本屋大賞は書店員が「いちばん!売りたい本」を選ぶ賞だ。「本の雑誌」増刊の「本屋大賞2005」で、豊崎大森望を相手に「『じゃあ、恩田さんの最初の賞はわたしたちが!』っていうそんな書店員の作家への愛が結果に繋がってる気もしますね」と推理する。


といって、辛らつな書評で定評のある2人が、本屋大賞と書店員への手放しの賛辞に終始するわけがない。開口一番、彼女は「順当過ぎ!」と言い放つ。『博士の愛した数式』の後が『夜ピク』じゃ、意外性なさすぎというのだ。「二回目にして早くも予定調和になりかけてるのはいかんですよ。これじゃあ、版元に簡単に傾向と対策をされてしまう」と大森も憂慮する。


夜を徹して80キロを歩く。『夜のピクニック』は高校生活最大の行事を素材に、淡い記憶と郷愁を刺激する上質の学園小説だ。受賞は当然と思う反面、幻想的な色合いの濃い従来の作品で、彼女は受賞できたかなとも考える。大賞のノミネート作を見ても、泣かせる話への書店員の欲求は強い。


本屋の棚は近い将来、“切なく” “優しい” “温かな”小説で埋め尽くされるのだろうか。