す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

朝日新聞より

本書は91年から毎年一冊ペースで観光されてきたラグビー熱狂者による寄稿文集。「ファンジン」と呼ばれるイギリス流投稿誌と違うのは、体裁がソフトカバーの単行本であるところだ。書き手8人の中心は50年生まれの中尾亘孝(のぶたか)で、「2011年ワールド・カップ招致への見取り図」と「エピローグ めげている暇はない」の2編を執筆している。


中尾による批判の矛先は主に協会幹部、代表監督、そして「理念なきトップリーグ」に向けられる。だがこの経験豊富な筆者でさえ、2004年欧州遠征での萩本ジャパンの惨敗だけは予想できなかったようだ。


「私の間違いは、よもや百点ゲームはなかろうと高をくくっていたことです。この一点において、わが認識が強化委員長とたいした違いのないことを認めざるを得ない。情けないやら恥ずかしいやらくやしいやら、まっこと痛恨の極み」と哀愁が漂う。47年岩手県生まれの釜石ファン、佐々木典男による珠玉のプロローグ「熱気への招待状」も、スコットランドに100対8、ウェールズに98対0で敗れた「惨劇」から書き起こされている。


産業化への過渡期にあるラグビー=楕円球界の空転が際立てば際立つほど、書くべきことがいや増す皮肉。軽くて短い匿名的な感想とは一線を画する批評の健在が、慈雨のように思える。─佐山一郎(作家)