す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

朝日新聞より

子どもを虐待したり夫婦間の政争の具にしたりする親には、文句なくお勧めしたい本である。でも、この本の200万読者は、そんな親ではあるまい。子どもを大切に思い、食べちゃ痛いほど愛しているからこそ、この本を手に取ったにちがいない。「より良き親になりたい」という純正な動機で。そこにこそ、ある種の危うさを感じてしまうのだ。


「けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる」といったシンプルな因果律の連なる教えは、暗誦もしやすい。マニュアルどころか金科玉条にしたい気持ちも分かる。でも、「こうすればこうなる」で片付くほど子育て、いや人間が単純なら、だれも苦労などしない。たとえばこの「けなす」を「いじめる」に置き換えたら・・・?


「叱りつけてばかりいると、子どもは『自分は悪い子なんだ』と思ってしまう」「誉めてあげれば、子どもは、明るい子に育つ」─このへんのくだりも昨今の流行である「誉めまくり主義」をさらに助長しそう。電車内で騒ぐ子を叱った乗客に、この詩を引用して食ってかかる親が現れないことを祈るばかりだ。


もちろん米国の家庭教育家による体験的エッセイとして気軽に読まれるなら、こんな心配も無用だろう。本文を熟読すれば著者の真意はわかる。優しさの裏にある厳しさも伝わる。


ただ全編に漂う「嫌われないように穏便に子どもをコントロールしたい、という日本の親たちの欲求をも肯定してくれそうなムード」こそが、このベストセラーの隠れ要因であるような気がしてならないのである。
山崎浩一(コラムニスト)