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ツブヤキニッキ

クレストブックス『赤いモレスキンの女』

久しぶりに上手いなぁと感心する本に出会いました。アントワーヌ・ローランの『赤いモレスキンの女』(新潮社クレストブックス)です。

そもそもは、文房具好きの私も気に入っている「モレスキン」の手帳がタイトルになっていることに惹かれて読み始めた本です。

まだ半分しか読んでいないのですが、最初から他の本とは違うものを感じ、それが一体何なのかという興味を大いに掻き立てられています。

ストーリーの面白さのみならず、作家の頭の良さとかエスプリの効いた表現にも感心していますが、ここには翻訳者(吉田洋之氏)の能力も大いに関係していると確信しています。

フランス語の本ですから、あまり存じ上げない翻訳者さんなのですが、文章のリズムを始め、訳した日本語が素晴らしいのと、語彙の豊富さに舌を巻いています。そう思える翻訳家は、柴田元幸さん以来かなぁと。

というわけで翻訳者の能力は作品に大きく影響すると、またしても思った次第。文章に長けた作家と文章に長けた翻訳者の能力が相まって、二倍ではなく二乗になり、めったにない大人が読むに値する上質な本に出会えたという感じがします。

もともとフランス文学は、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯巌窟王)』以外は好きではないという認識だったので(デュマも他の作品は好きではありません)、実はこの本もあまり期待していなかったのですが、良い方に裏切ってくれて非常に嬉しいです。

残りの半分も、そういったことを楽しみながら読みたいと思います。この作家と翻訳者のコンビの本はまだ他にもあるので、是非読みたいですね。苦手なフランス文学も、少しは距離が縮まったかな?

とはいえ、物語の中にフランスの作家名が出て来ても、現代のフランスの作家は全然知らないので、変な先入観なしに読めるのは良い事でした。

蛇足ですが、作中にジョン・アーヴィングの作品も出て来て、それがアーヴィングファンでなければ知らないような作品で、それにもびっくりした次第。よりによってそれを選ぶのか!と。

◆『赤いモレスキンの女』/アントワーヌ・ローラン
https://www.shinchosha.co.jp/book/590170/