2005年12月6日 11:15:36
─ 東京新聞
ジャズの聖地を救え−。超大型ハリケーン「カトリーナ」が米ルイジアナ州ニューオーリンズを破壊してから3カ月。復旧に手間取るジャズ発祥の地を助けようと、東京・渋谷の教会で9日、現地ジャズマンを招いたコンサートが開かれる*1。リーダーは学生時代に単身渡米、20年にわたりプロとして活動してきた日本人ピアニスト渡辺真理さん*2。渡辺さんをはじめバンドメンバーも苦しい避難生活が続いている。
ニューオーリンズ市内の八割を水の底に沈めたカトリーナが破壊した住宅やオフィスの復興は進んでおらず、市民約45万人のうち30万人以上が避難したまま。労働者不足から多くのホテルが再開できず、観光客もほとんど戻っていない。
コンサートは「このままでは現地のジャズの灯も消えてしまう」と心配する都内のアマチュアのジャズピアニスト、東海林幹雄さんらが計画。売り上げの四割を復興のため現地のボランティア団体などに寄付する。
メンバーらはトラディショナル・ジャズのライブハウスとして有名な「プリザーベーションホール」に定期出演する実力派。しかし、同ホールも閉鎖が続く。トロンボーンのバーバリンさんはアリゾナ州、ドラムのジョンソンさんはテキサス州など全員が避難中だ。
バンドを率いる渡辺さんも250キロ北のミシシッピ州のアパートに仮住まいしている。東京都武蔵野市出身で、子どものころからピアノを習ってきた渡辺さんは早大ニューオルリンズジャズクラブに所属していた大学2年の時にニューオーリンズを観光。黒人ジャズマンらの力強い演奏にショックを受け「現地で音楽を」と決意。バイトで貯金し卒業を待たず翌85年に現地に飛んだ。
当初はストリートミュージシャンに交じって演奏。ピアノに車輪をつけ、毎日、広場まで引っ張っていっては弾いた。そこで腕を磨いた後は各種の有名バンドに参加、2年前には地元雑誌でピアノ部門のベストミュージシャンに選ばれ、リーダーCDも出した。
「マリが一人でピアノを運んでいるのを見かねて、手伝ったのが最初の出会い。マリほどガッツのあるミュージシャンはいない」。トランペットのウィリアムさんは言う。仲間のジャズマンも驚くほど意志の強い渡辺さんだが、「今回の被災はこたえている」という。
カトリーナ襲来時は夫のサックス奏者、ロジャー・ルイスさんがツアーに出て不在。このため、7歳の娘と友人を乗せ、受け入れ先のあてもないまま「とにかく遠くに」と10時間以上も運転。教会の緊急避難所に駆け込んだ。
自宅は1メートルも浸水し、ピアノも家具もぐちゃぐちゃ。天井も壁もかびだらけで、大修理が必要。水道や電気も復旧せず、戻れるのは早くて来春になりそうだ。
ニューオーリンズの今後について渡辺さんは「みんな将来の見通しがつかないことが一番、苦しいのでは」と顔を曇らせる。
避難住民が戻るには相当なお金をかけ、家を再建しなければならない。ところが、政府による堤防修復計画は来年6月までに「中程度」のハリケーンに耐えられるようにするだけ。「カトリーナ級」に耐える増強策の見通しは立っておらず、戻れたとしても洪水再発の不安を抱えながらの生活なのだ。
しかし、今回のコンサートでは犠牲者の追悼のためのゴスペルに加え、「マルディグラで踊っているうちに」などニューオーリンズならではの陽気なナンバーもたくさん演奏するつもりだ。渡辺さんは「とにかく楽しくやろうね」とメンバーらに呼びかけている。一緒にプレーするのも8月以来、4カ月ぶり。
「今度はいつ会えるかも分からないから、思いっきりやりたい。聞いている人にもニューオーリンズ・ジャズの楽しさを存分に味わってほしい」
- 日時:9日午後7時から
- 場所:渋谷区宇田川町の東京山手教会
- チケット:前売り5,000円、当日5,500円
- 申し込み・問い合わせ:ニューオーリンズジャズソサイエティ事務局・東海林
- 電話:03(3630)3036
10日は早大ニューオルリンズジャズクラブのリサイタル、11日には浅草「HUB」でも演奏する。─池尾伸一(ニューヨーク支局)