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「夜空はなぜ暗い?」

『夜空はなぜ暗い?―オルバースのパラドックスと宇宙論の変遷』エドワード ハリソン (著), Edward Harrison (原著), 長沢 工 (翻訳)

出版社/著者からの内容紹介
夜空はなぜ暗い? 宇宙に果てがなく星が無数にあるなら、夜空は星の光で輝くことにならないのか? この一見愚問とも思える素朴な謎は、「オルバースのパラドックス」として知られています。400年前のガリレオケプラーの時代から今日まで、この謎を解こうとすることは、すなわち宇宙の構造を理解することであり、宇宙論の本質に迫るテーマでした。  


「オルバースのパラドックス」は物理・天文関係の事典類には必ず見出し項目として取り上げられてその解説が掲載されている有名な話題ですが、これまで日本ではこのテーマを系統的にたどった一般向けの解説書はありませんでした。また、この謎は、宇宙の膨張とそれにともなう赤方偏移現象、いわゆるビッグバン宇宙論によって解決済みの問題として扱われています。  


確かにその通りではあるのですが、しかし、著者ハリソンの言い方によれば実際にはそれほど単純なものではなく「満足のいく解答につながる探索の道筋」には「落とし穴、迷宮、怪物、その他の災いがそこには待ち受けており、これまでに不注意な探検家(天文学者)を大勢罠に陥れた」テーマとなっています。  


過去から現在まで、この謎に取り組んだ天文学者の思考の跡を辿ることは、天文学の歴史、宇宙論の変遷を時系列的に追うことにとどまらず、素朴とも言えるパズルの意外な奥深さを訪ねることにもつながっています。物事を常に理性的に、合理的に考えようとする西欧の人々の精神を、“夜空はなぜ暗い?”という謎の探究から垣間見ることさえ可能です。  


本書は三部に分かれており、第一部では、古代の世界において、夜空の闇の謎の起源へつながる思考が現れた道筋をたどります。中世において空間や宇宙に関する考えを生み出し、その思考が学問の流れに多大な影響を与えた聖職者たちがおり、さらに、16世紀および17世紀に、それらに刺激された天文学者たちがこの謎を系統立てていったことが解説されています。第二部では、17世紀にデカルト派やニュートンの体系が起こったことを述べ、この謎を深め、豊かにした科学のドラマをひもといて、複数の解答がありうることを明らかにしています。  


第三部では、銀河が発見され、新しい天文学や現代の宇宙論が出現したことを絡めて語られ、この謎に対する正しい解答の一つが、おぼろげに、また定性的にではあっても19世紀の詩人・作家エドガー・アラン・ポーによって与えられ、定量的な明確な形では、20世紀初頭のケルヴィン卿によって与えられたことが語られます。  


奇妙なことに、ポーとケルヴィンによるこの解答は無視され、すぐに忘れ去られてしまいました。20世紀には、湾曲した空間で膨張し進化する宇宙に関して、複雑な物理学や数学を理解する大変な作業があったため、この謎は、一時的にその作業の影に隠されてしまったと言えます。その後、宇宙についての知識が増大し、近年流行していた宇宙モデルがさらに多様になり、観測から発見された事柄によって、我々はビッグバンの残光で満たされた膨張宇宙に住んでいることが明らかになっています。  


その後、ヘルマン・ボンディや定常宇宙論を唱える他の天文学者たちが、この謎を復活させています。一時的ではありましたが、夜空の暗さは、宇宙膨張を証明する驚くべき証拠と思われたこともありました。残念なことに、この巧妙な解答は膨張する定常宇宙モデルにしか適用できず、そしてこのモデルは今やビッグバンの残光の発見によって論破されてしまっています。そして、現在の宇宙には、空が星で明るく照らされるほど十分なエネルギーはないことが、本書の著者自身によって明らかにされています。

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