内容(「BOOK」データベースより)
遠くから見つめていたものがいまなら手に入るかもしれない。時空を越えた旅とあたらしい商品カタログ。
<抜粋>
いまはもう昔――、
『ミツバチのささやき』という映画を観たとき、主人公を演じるアナ・トレント嬢が手にしている鞄が気になった。
気になったというか、あるいはもっと単純に「気に入った」というべきか――。
その鞄をいつか手に入れたいと夢見るうち、誰かに奪い取られたかのようにごっそりと時間が流れた。
時移り、二〇〇三年九月。
スペインはサン・セバスチャンで開かれた映画祭のポスターに、『ミツバチのささやき』をモチーフにした不思議な写真があらわれた。
奥行き長く伸びる線路の上にふたりの少女を配し、三十年前の映画の一シーンを再現している。ひとりは線路に耳をあててうずくまり、ひとりはこちらを見据えて線路の上に立っている。
かつての一シーンのとおり、立っているのはアナなのだが、驚いたことにそのポスターのアナはよく見るとかつての少女ではなく、成熟した女性として、しかし少女のときの格好のまま、こちらをじっと見つめている。
時のパースペクティブを思わせる線路の上には、あの懐かしき鞄も健在だった。
そこでふいに、「もういちど」という言葉が頭をよぎる。
長らく気になっていた――いや、気に入っていたその鞄をどうにかして仕入れ、我がクラフト・エヴィング商會のあたらしい商品カタログに紛れ込ませたい――
いまいちど手をのばしてみて、それがまだそこにあるのかどうか確かめてみたい。
かくしてふたたび、仕入れの旅に出かけることになった。
古今東西、あらゆる時空へ向けての仕入れの旅。
ここに集められたのはそのひとまずの成果と言っていいかどうか――。
探したのは、あくまで「アナ・トレントの鞄」だったが、時のパースペクティブは、魅力的でとんちんかんな寄り道をつぎつぎ用意して待ち構えている。
このカタログに並んだのは、さしずめ鞄の中身ということになるだろうか。