アラバマ物語(1984/05) ハーパー・リー、菊池 重三郎 訳 商品詳細を見る |
「この美しい小説を、世のすべての親たちに捧げる。舞台はアメリカ南部の古い町。母なきあとの父と兄妹の心にしみる愛情をヨコ糸に、婦女暴行の無実の罪をでっちあげられた黒人の若者をタテ糸に、見事に織りなした人生のメロドラマ。61年のピュリッツァ賞にかがやき、11ヶ国語に翻訳され、すでに数百万部を売り尽くし、95週延々2年にわたって連続ベストセラーを続けた名作である」
表紙を開いたところに、上のような文章が大きく書いてある。これ以外に解説もあとがきもない。もうこれだけで十分である。主人公スカウトの目を通して描かれた、アラバマ州メイコーム(架空の町)の人々の暮らしや、人種差別の実態。父アティカスと兄ジェムとの絆の深さ。人間とは、家族とはどうあるべきなのか?といったことを考えさせられる。
エピソードごとに感動して胸がつまり、ページがぼやけてくる。素直なスカウトの心と、誠実で責任感の強い父アティカスの態度、大人になろうとする兄ジェムの頼もしさに、いつしか引き込まれ、一緒に泣いたり笑ったりするようになる。
最も大きな人種差別というテーマは、全編を通じて流れており、「相手の身になって考えること」という大事なことを教えてくれる。お化け屋敷の住人である、ブー・ラッドリーの視点に立った時のスカウトは、そのことを身をもって知り、間違いなく立派な大人になるであろうことを予感させる。
何度読み返しても、新たな感動を呼び起こす、素晴らしい作品だと思う。