す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

出版社からのコメント

「トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ。そう、ぼくは、その鳥がどうしてもほしかった。それまでぼくは、なにかをどうしてもほしいと思ったことなど、まだいちどもなかった」


舞台は国境に近い山間の、雪深いフランスの小さな町。いつの時代の話かは、明確には示されない。このおとぎ話のような物語の主人公は、古道具屋の鳥籠に入れられた一羽のトビを見つけ、それを手に入れることだけを夢見るようになる。少年は寝たきりの父親が受け取る年金を補うため、養老院で散歩の付き添いをしてわずかな金を稼いでいた。だが、トビを買うには、いま以上に稼がなくてはならない。


家に戻ると、少年は毎晩のように自分で創作したトビを捕る男の物語を、繰り返し父親に話して聞かせる。父はその話にすっかり魅了され、トビの存在は二人の絆をいっそう強くする。しかし、父の死期は迫っていた。早く必要な額を揃えなければ、トビも寒さで凍え死んでしまう。少年はいくつかの辛く残酷な「仕事」を引き受けなくてはならなかった・・・。


あらゆる装飾を取り除き、純粋なエッセンスだけを残した物語設定の中で、少年と父親の繊細なかかわりや、少年の日常に潜む生や死のドラマ、恐怖や孤独の影でひっそりと光を放つ空想や記憶の甘美さが、沈黙の中に、あるいは沈黙にきわめて近い、つぶやきのようなものによって描かれ、深く心につきささる。2003年度メディシス賞受賞作家による、胸に迫る中編小説。