静謐な中に不思議な力強さを秘めた中編小説『おわりの雪』(2004年12月刊)は、海外小説としては近年稀にみる大勢の読者を獲得した。刊行以来「ぜひ同じ作者の本を同じ翻訳者で」という声も数多く寄せられるなか、邦訳第二弾として刊行される本書は、児童文学作家として知られていたマンガレリの最初の一般向け小説で、こちらも、主人公の回想でつづられた父と子の物語である。
見渡すかぎりどこまでも「ふしぎな草」が生いしげる、原っぱのまんなかの小さな町。電気も止められてしまうような貧しさの中で寄り添う少年プリモと父親は、裏庭に自生する〈つるばら〉をそだててひと稼ぎしようと夢みる。
親子は、形のふぞろいな百個のびんに植えられたばらを、毎日丁寧に世話をする。水は1日2回。朝、びんを家の外に出し、決まった場所に正確に並べていく。陽が沈んだら、またびんを家の中に入れる。そしてふたりいっしょにいつものお祈り。来る日も来る日も、すべてはひそやかに、そして神聖なまでの厳密さで繰り返されていく。
ばらの世話をする以外の時間、プリモは歩く。ひたすら歩く。歩きながら雨や風、太陽の陽射しに親しみ、まわりの自然と対話しながら科学する。また自由な空想をくりひろげてひとり楽しむ。たとえば、記憶の中のみどり色でしずかだった川を思い浮かべてみたりして……。
そんな父と子のささやかな日常は、ほろ苦いユーモアに彩られながら、一切の装飾を削ぎとった抑制の効いた文体や驚くほど多くを語る著者独特の沈黙の作法によって、切ないほど美しい輝きを放ちだす。