す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

Publishers Weekly

いささかまとまりに欠けるアーヴィングの新作(『第四の手』以来)の主人公は、俳優のジャック・バーンズ。自分のアイデンティティーと父親の姿を追い求め、尊大でわざと異常なふるまいをする何人もの女たちと性的関係をもつ。小説の冒頭(年代は1969年)で、4歳のジャックはトロントに住むタトゥー・アーティストの母親アリスに連れられて、家出したジャックの父親ウィリアム・バーンズを探すため、1年間、北ヨーロッパを回る。父親は教会のオルガン奏者で、「(タトゥーの)墨にとりつかれた」男だ。トロントに戻ったアリスは、「女の子の間においておけば安全」だろうという誤った考えから、ジャックを女子校の聖ヒルダ学院に入学させる。ジャックは次に、メーン州にある男子ばかりの大学進学予備校のレディング校に移る。年上の少女や大人の女性から性的な誘惑にさらされながら少年時代を送ったジャックは、世界的に有名な俳優になり、脚本家としてアカデミー賞を受賞する。やがて彼は、父親にまつわる真実を求めて子供のときに過ごしたヨーロッパにおもむくが、これは自分が正常になるための旅でもあった。繰り返される露骨な性的描写にはうんざりしてくるが、タトゥー・パーラーの素朴な仲間意識、ハリウッドのきらびやかな世界、純化されていくジャックの感情、異母妹との出会い、父親との新たな結びつきなど、わいせつでない部分のアーヴィングの表現は見事としかいいようがない。