す も も の 缶 詰

ツブヤキニッキ

朝日新聞より

勝ち戦に文学はない。敗北からこそ文芸復興の機運が生まれる。本書は、南北戦争の戦後文学だったアメリカ南部文学を鏡にして「戦後日本」の問題を映し出そうとする力作の評論である。民主主義の大義をかざす大国と戦って敗れ、国土は廃墟と化し、おびただしい戦没者の墓碑の上に、戦死の意味を無化するかのごとき繁栄が押し寄せる。たしかに顕著な胸像関係が成り立っているといえる。


著者によれば、両者の間には、敗北の意義を問い返す≪敗北の文化≫の質に決定的な差異が存在する。加藤典洋が『敗戦後論』でいう「ねじれ」である。どこに回復の途を探るか。フォークナーらの「南部文芸復興」は戦後60年間の歳月を必要とし、その根底には「強い祖父・弱い父・熟成する子」という世代交番のドラマがあった。「日本の敗戦から数えて第三番目の世代」である著者が、批評のモチーフをつかんだ出発点である。─野口武彦(文芸評論家)