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ネットと戦争―9.11からのアメリカ文化

『ネットと戦争―9.11からのアメリカ文化』/青山 南 (著)

出版社より
青山南さんと、インターネットとの出会いは1999年、けっこう遅いほうだ。『ブリタニカ百科事典』が無料で使い放題ときき、ためしてみようと思ったのだ。以来、ネット内の浮遊を楽しんでみつつ、この世界も成熟してきたなと思っていた矢先、あの大事件は起こった。2001年9月11日。もう「マスメディアの力を借りなくても、ネットから情報が引き出せた。マスメディアが伝える情報がほんとうかどうかも、ネットで調べることができた。……いろんな人間のいろんな意見もすぐ聞けた。じつにたくさんの声であふれかえっているのがネットだから……」

都市インテリにとって、ネット生活そのものがあたり前といわれるようになっている。調べたいことがあれば、ネットにアクセスして知識を得る。海外のニュースもそうだ。戦争の概要やスクープ、ヘラルドトリビューンの社説からタブロイド紙のすっぱ抜きまで、我々は居ながらにして読むことが出来る。

しかし、海外文化の潮流をネットで読むにはそれなりの知識が必要とされるし、勘や想像力もはたらかせなければならない。そのあたりを分りやすく、しかもアメリカ文化の諸事情を上手にさばいてみせてくれるのが、青山さんのこの『ネットと戦争』である。

9・11以後、この事件の意味、テロの考察、イラク戦争の問題などをめぐって、現代アメリカの作家、詩人(日本と違って詩人の地位が高いようだ。各地で朗読会が行われている)、評論家、知識人たちが、ネット上でさまざまな意見を闘わす。

青山さんは、丹念にそういった情報を集め、しばらく遅れて入手する雑誌本体と比較したり、映画やTVを手にいれたりしながら、アメリカの現在を描き出している。

――夜空の下、無防備で横たわる ぼくたちの世界は、麻痺している だが、どこを見ても点々と 皮肉な光が点滅する 正義の人びとがいまも 交信しているのだ。

冒頭は、このW・H・オーデンの「1939年9月1日」という詩である。1939年9月1日にナチスポーランドに侵攻したというニュースをきいて書いたのだ。世界はあまり変わっていないのかもしれない。─(編集部 小野民樹