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ツブヤキニッキ

文学グルメ : 花巻蕎麦

朝餉は抜き、昼餉は蕎麦屋で花巻蕎麦を食べた。
花巻とは、あぶって揉んだ海苔を、かけ蕎麦にふりかけたものである。江戸前でとれた海苔の香りが蕎麦の風味を引き立てている。
俊作は、この花巻が好物だった。

ー芦川淳一
『おいらか俊作江戸綴り・若竹ざむらい』

《包丁浪人》シリーズに続き、芦川淳一さんの時代小説、《旗本風来坊》シリーズ、《宵待ち同心三九郎》シリーズ、そして上に引用した《おいらか俊作江戸綴り》シリーズを読み終えました。

“おいらか”(おっとりとしたという意味の古語)と渾名される主人公の滝沢俊作は、《包丁浪人》同様、訳あって浪人になり、おいらかと言われながらも剣は滅法強い正義感溢れる若者。

その俊作の好物が花巻蕎麦。このシリーズは《包丁浪人》のように料理が沢山出てくるわけではありませんが、俊作がよく食べているので、読んでいる間ずっと気になっていました。特に変わった材料ではないものの、そういう蕎麦は食べたことがなかったからです。

というわけで、シリーズを読み終えたのをきっかけに自分で作って食べてみたところ、予想以上に美味しかった!シンプルなだけに、蕎麦、つゆ、海苔にこだわって作ったら、もっともっと美味しくなりそうです。

しかし、蕎麦屋さんで花巻蕎麦を見たことがないので調べてみたところ、あるところにはあるのですね。気にして見ていなかっただけかもしれませんが、それでもやはり現代ではあまり見かけない蕎麦なのではないでしょうか。

ちなみに、コラージュに使用した写真は「つきじ文化人」さんの花巻蕎麦、1030円です。シンプルで美味しいので、立ち食い蕎麦屋さんとかでも置いてくれればいいのにと思いながらも、いい海苔を使ったら、それなりの値段になってしまうのだろうなとも思います。

浪人になった俊作が、高価な蕎麦を食べていた(時には3杯もお代わりしている)とは思えないので、江戸時代は海苔が安かったのでしょうか。

ともあれ、蕎麦ひとつに好奇心を掻き立てられてこれだけ楽しめたのは、なんだかとっても得した感じ。もちろん内容の方も面白く、リズムもいいので、あっという間に読めました。

大学受験は世界史選択で、日本史の知識があまりなく、江戸時代に関しても殆ど無知な私。小説を面白く読んで、さらに江戸の文化まで学べるというのは、まさに一度で二度美味しいおまけつきのグリコみたいなものです。

知らなかった事を知る新鮮な喜びと、普段は目にしない、あるいは耳にしない昔の日本語のリズムの小気味良さにはまっています。次はどのシリーズにしようかと思案中。